
Side:凌介 and 実夕
“イイヤツ”か──。
「あのー、凌介クン…ちょっと、いい?」
「ああ、いいよ…。出て話そっか?」
「実夕っ!今、沢口里香が凌介クン呼び出したって!」
『あんなヤツ知らない。あんなヤツ人間のクズよ、宇宙の粗大ゴミ!顔も見たくない』
「何?実夕ちゃん幼なじみとケンカ?」
「そうなのよ…朝からずっとこう」
『今回のはどっからどう見てもあっちが悪い。謝ったって許してなんかやらないから』
「ふーん…よく分かんないけど…じゃあ、今日は俺の友達誘って四人で遊びに行こーぜ?パーッと。美沙ちゃんも!」
「ごめん…うち、今日は…彼氏と…」
『いいよ、二人で行こ!パーッとさ!』
「いーの?実夕ちゃん…」
『いいよ!私だって男友達と出掛けるくらい』
「あーあ…この娘こうなったら聞かないよ。連れてってあげて?」
「おー、俺はいいけど」
『じゃ、行こ?今日は本当にパーッとしたい気分なの。』
『……ごめん。つい、勢いで…。ど、どうする?』
「ははっ!今日はやめとこ。実夕ちゃん無理そうだし…また今度美沙ちゃんとかも誘って来よーよ。な?送ってくよ」
『うー…ごめん、自分で引っ張って来といて。でも、ありがと。暁は優しいね』
「…篠田と何があった?よかったら話してよ」
『…知らない。あんなヤツ……自分はどーせあの娘と付き合うくせに。私ばっか子供みたいに、自分ばっか大人みたいに……嫌い…っ』
だって、凌はあの娘と付き合うんだ…。
“来るもの拒まず”――そりゃ、そんなの言葉のアヤで、本当に誰でもいいって訳じゃないのは分かってるけど…あんなキレイな娘だもん、きっと──…。
「彼女が出来るのが嫌なんだ?アイツに。」
『違う…そんなんじゃない。ただムカつくだけ!自分はいっつもすましてて、私ばっか振り回される…』
「振り回されてるんだ?篠田に彼女が出来たりすることで」
『違う…違うっ』
「…好き、あいつが。違う?」
『違う、好きじゃない。好きなんかじゃない…あんなヤツ──っ』
「ごめん、悪かった………泣くなよ」
涙が溢れた……後から後から。
──どうしてだろう?一人の時だって、意地張って泣けなかったのに…。
暁に背中をさすられながら…。
その手が、苦手だったくせに。
凌以外の男の子に触られるなんて──。
でもね、安心したの。言葉とは裏腹に…泣いていいよって、言われてる気がして──。
ああ、そっか…そうだった。
昔は、私が落ち込むと凌がいつもこうやってくれたんだ…。
私はいつの間にか、その優しい手なしでは、一人では、泣けなくなってしまったのに…。
凌はもう離れていってしまうんだね…。
私だけ、凌に依存して。
私だけ、前に進めずにいる。
暁の手はその優しい手に似てる。
似てるだけで、今こうしてくれてるのは凌じゃない。
分かってるのにね…。
似てるってだけで凌を思い出して。
それだけでこんなにも苦しいよ、切ないよ──…。