―4―

Side:凌介

 高2になって少し経った頃、やっぱりクラスの違いって大きいんだな、なんて思ったりしてる。

 今日は親が二人とも出掛けちまって、俺はしょうがなくカップラーメンでも食おうと階段を下りる。

『お邪魔しまーす』

 そう言ってチャイムも鳴らさずに玄関を開けたのは、幼なじみの実夕。

『ねー、もうご飯食べた?』
「いや、今からだけど…」
『間に合ったー!じゃあ、私が作って差し上げましょう!オムライスでいいでしょ?』
「お前、作れんの?昔、市販のルウ買ってきてハヤシライス作ったくせに、何故か味が全っ然しなかった実夕が…」
『もう!そんなの中1の時の話じゃない。オムライスくらい作れるよ!しかも、とろっとろの半熟の作ってあげるから。待ってなさい』

 久しぶりのやり取りは、やっぱりケンカ腰だけど、それがいい。俺ららしい。


* * * * *


『じゃーん!わー、おいしそ。』
「自分で言うなよ」

 口ではそんなコトを言ったけど、ぶっちゃけ驚いた。

 目の前に出てきたのは、すげーうまそうなオムラムスだった。

 いつの間に…。
 こいつだけは変わらないと思っていたのに…。

 ショック?

 いや、違う。
 違うけど…なんか、こう…。

「うまい。お前も少しは成長してるみたいで安心したよ」
『むー、一言多いっ』

 そう、こうでなくっちゃ。

 俺、からかうヤツ。実夕、からかわれるヤツ。
 俺、余裕なヤツ。実夕、必死なヤツ。

 いつからだっけ?そんな風に思い始めたのは…。

 だって、実夕はいつもそうだった。

 俺が冷たくすると、拗ねる。
 俺に彼女が出来ると、寂しがる。
 男が苦手で、俺に頼ってくる。

 そうやって、俺の一挙一動に反応して、いつも俺の後ろを付いてくる。

 いつの間にか、この関係が当たり前になっていた。

『ねー、言ったっけ?私が行事実行委員になったこと』
「いや、初耳。つか、そんなのになって大丈夫なのかよ?」
『うん!結構忙しいけど、その分他の人より楽しめるし』
「そうじゃねーよ。それって男女一人ずつじゃなかったか?」
『そうだよ』
「そうだよ、って…俺は違うクラスだし、庇ってやれねーからな」
『分かってるよ、そんなこと。大丈夫なの、暁は優しいから!そりゃ、凌みたいに平気な訳じゃないけど、“男なんか怖くない大作戦”とか言って協力してくれてるの!何それ?って感じでしょ?私も最初、ビックリしたもん』
「…何だよ、ソレ。そんなんで治るかよ。そんなんで治るんだったら今までそんなに気にすることなかったじゃねーかよ」
『そんなことないもん。ほんの…ほんのちょっとだけど、治ってきてるもん!暁が一生懸命やってくれてること、そんな風に言わないでよ!』
「何だよ…アキ、アキって。からかわれてるに決まってんだろ?それとも何、付き合ってるとでも言うのかよ?」
『ひどい…暁は初めての男友達なのに。頑張ってやっと出来た男友達なのに』
「んだよ…ダチの一人出来たくらいで浮かれてバカみてー。そいつには下心でもあんじゃねえの?」

 パァンッ…。

 実夕の悔しそうな顔を見たかと思うと、次の瞬間、左頬に衝撃が走った。

「痛って。…何だよ」
『バカ。凌のバカッ!何でそんな意地悪言うの?昔はそんなに冷たくなかったよ!そんな凌、ヤだ…嫌い、大っ嫌い。もう、帰る。』

 何だよ、どうかしてる…。

 あんなこと、言うつもりじゃなかったのに。

 本当は、一番に喜んでやりてぇのに──…。


 …初めてだった。実夕が俺以外の男の話をするのなんて。

 ましてや、あんなに嬉しそうに、楽しそうに。


 ──誰だよ、暁って…。

 今更、横からやってきてヒーローにでもなった気かよ?

 俺は、ずっと…ずっと、実夕を守ってきたのに。
 自分を抑えて、見守ってもきたのに。
 あの無邪気な笑顔を、一番近くで守ってきたのに――。


 実夕が落としていった、初めて見る髪留めが……妙に不安を煽った──…。



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