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Side:実夕

 ガラッ、と教室のドアを開けて席を探すと、やっぱりあっさり見つかった。

『…やっぱ一番前の席なのね』
「“麻生”だから仕方ないねー。席替えまでの辛抱よ!担任次第では今日やってくれるかもしれないし」
『そうだね』

 とは言うものの、ちょっとだけ落胆を隠せないまま席に着いた。…瞬間のこと。

「お、あんたそこの席の人?」
『え…』
「俺、隣の席の岡野暁人(おかのあきと)。これからよろしく!名前、聞いていい?」

 うわー…どうしよ。美沙!…ってもうあっち行っちゃったし……えっと、えっと…。

「聞いてるー?もしかして、馴れ馴れしいとかって怒っちゃった?」

 違うよっ!
 わーん、どうしよう…何か言わなきゃ。

 分かってるけど、声が出ないよ。

 このままじゃ嫌われちゃうよ…。

 あ、美沙、こっち向いてる!早く助けてー!

 え?何か言ってる…口パクで──ええっ!?“頑張れ”って、そんな…。

 …そうだよ、決めたじゃん。頑張るって。何よ、いつも人に頼ってばっかでさ。さっきの強気はどこいったのよ!
 今がチャンスじゃない。…よし!

『あのっ…』
「ん?」

『えっと、その…』

 声が震えるよ…。でも、早くしなきゃ。

「いーよ、そんなに焦んなくて」
『え…?』

 それは、あまりにも予想外の言葉で――。

「ゆっくりでいーよ。急に驚かしてごめんな?」

 私が一人で変なのに、“ごめん”だなんて…。

『あの、ごめんなさい!私、あの…男の子苦手で…だから、ごめんなさい!』
「……ぷっ…あんた、おもしろい」
『ええっ?』

 ひ、人の一大決心を…!

「ってか…そっか、苦手なのか。よかった。嫌われたかと思ったよ。謝ることなんかじゃねーのに。ってか俺こそ知らなくて無神経でごめんな?よかったら仲良くしよーよ。あんた、素直でおもしろいから気に入ったし」
『え?う、うん!仲良くして!でも…私、男の子慣れてないから、嫌な思いさせちゃったらごめんなさい』
「そっか、そのごめんか。全然いーよ!そーだ、俺で慣れればいーじゃん。な?」
『…っ…あ、ありがとう。私、麻生実夕…よろしくね』
「オッケイ、実夕ちゃんな。俺のことは暁人とか暁って呼んで」
『…アキ?』
「おお、中学からのダチはそう呼ぶ」
『じゃあ、暁…クン。』
「いーって、“クン”は。暁で!」
『え…うん、分かった…』

 そ、そんなぁ。…凌以外の男の子を下の名前で呼ぶのなんか初めてなのに、更に呼び捨て(?)って──。


* * * * *


 お昼休みは、今まで通り、美沙と食べれる。
 こんな時、改めて美沙と同じクラスでよかった、って思う。

「実夕ー、頑張ったね!偉い!よかったね、隣の席が暁人クンで」
『うーん…なんだかあっけにとられてるうちに話が進んで…。でも、暁…って呼んでなんて、やっぱ慣れないなー。ね、何で…あ、暁でよかったね、って言うの?』
「わぁ!“アキ”って呼ぶんだー!実夕が凌介クン以外の男子とこんなに仲いいの初めてじゃない?やっぱ暁人クンなら優しくてノリもいいし、おもしろいから実夕も少しは話し易いかなぁ…とは思ったけど」

 ここまでとはね、と美沙は頷く。

『うん、確かに優しかった…。男の子苦手、って話したら、“俺で慣れればいーじゃん”って』
「わぁ…噂通りイイヤツじゃん!じゃあ実夕が苦手を克服するのも時間の問題かな?」
『き、気が早いよ!朝話しただけなのに』

 ──でも、そうなるといいな。

「実夕ー!なあ、箸もう一個ねぇ?」
『凌!あるよー、ハイ。』
「サンキュ。どう?新しいクラスは」
『うん、午前中自己紹介したけど、割とちゃんと出来たよ!』
「そっか、そりゃよかったな」
「あっ、凌介くーん!箸見つかったよー!」
『なんだ、別に私があげる必要無いじゃない。コレはいいから、あっちもらってあげなよ。折角、凌の為に探して来てくれたんだから』
「おー。じゃあまたな…頑張れよ」

 凌が頭をポンッてする――昔は嬉しかったけど、今は、なんか子供扱いされてるみたいで、ヤだ。

「凌介クン、やっぱ人気だね〜。また誰かと付き合っちゃうかもよ、いいの?来るもの拒まずって聞くし。」
『別にいいもなにも、今更。今までもずーっと女の子絶えなかったじゃない。しかも、キレーな娘ばっか』
「確かに。みんなキレイ系だったよね」
『そ。だから私は余計におこちゃま扱いなの。…イヤミなヤツ』
「でも、わざわざ心配して来てくれたじゃない!」
『あんなの箸のついでじゃない』
「…うちには箸のがついでに見えたけどなぁ。だって凌介クンなら別にすぐ手に入るでしょ?ホラ、さっきみたいに」
『えー?そりゃそうだけど、それはないよ。最近そっけなくなったし。ね、それより席替え!どうしよう…隣の男の子が怖い人だったら』
「うーん…どうやって決めるんだろうね?」

 …そう。凌のタイプは“キレイ”な娘──私とは正反対の。

 何度も何度も言い聞かせてるのに、凌に彼女が出来る度、改めて言われてれてるみたいで──。

 “お前なんか眼中に無い”って。

 分かってるはずなのに、どうしてあんなに泣きたくなるんだろう…?

 ……違う。
 別に好きな訳じゃない──ただ、寂しいだけ。幼なじみとして。

 そうやって、気付かない振りするの。
 傷ついてない振りするの。

 そうじゃないと、いられない。
 強がらないと、崩れちゃう……何もかも──。

 そう。こんなキモチ…いらない。

 こんな、突き放されるだけのキモチ、最初からなければよかったのに。

 神様って、残酷。

 こんな曖昧な関係じゃ、諦めもも決心もつかないじゃない。


 どっちつかず──“曖昧”なまま。



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