
Side:実夕
『ねー、凌!ビデオ貸してー!』
私は向かいの家に遠慮もナシに上がり込むと、階段を駆け上って、つきあたりのドアを開ける。
「なんだ実夕か。いいけど、お前んちの壊れたのか?」
『うん…あっ、あと1分で金曜ロードショー始まっちゃう』
この部屋の主は
…そう、私たちは俗に言う、幼なじみ。
『ふう…助かった。あ、始まったー』
「ってかビデオ入れたんだから自分の家で見ろよ?」
『えー!…じゃあせめて次のCMまで。』
「はいはい」
『って!凌も見るならいいじゃん』
「お前、俺の前では強気だよな。男苦手な割に。」
そう、私は男の子が苦手…。何て言うか…怖い!?凌以外の男の子は…ちょっと。別に、男嫌いって訳じゃ全然ないんだけどな。私の最大の悩み…。
「早く直さねえと一生独身だぞ」
『なっ…凌の意地悪。一番気にしてることを!…嫌い。クラスだって離れればいいんだ』
「おいおい…去年一年間隣の席になってやった恩はどこいった?」
『なによ。恩きせがましいヤツ。別にそこまでしなくていいって言ったじゃない!それにそっちこそ私と隣の席のお陰で助かってたんじゃないの?』
「なんだ…分かってたんだ?お前を盾にしてたこと」
『美沙が言ってたもん!』
「なーんだ、道理で実夕の割には鋭いと思った」
美沙って言うのは、
「ほら、CMだぞ」
『むっ…お邪魔しましたー』
なによっ!さっさと追い出してくれちゃってさ。
いつからだろう…?凌がこんなにそっけなくなったのは。
凌に“彼女”とかが出来るようになった頃かな?
いや、今でも優しいよ?優しいんだけど…なんか、昔に比べると距離を感じるの。
それに、何だか大人っぽくなって、かっこよくなって、モテちゃったりするようになって……置いてかれた気分。
幼なじみなんて大人になると関係ない人になっちゃうものなの?
私だけ、成長出来ないでいる──…。
今日は始業式の日…なのに、前の晩になかなか眠れなかった所為もあって、早速寝坊をしてしまった…。
『いってきまーす!』
美沙との待ち合わせ場所まで全力疾走しながら、凌の家をチラッと見る。特に意味は無いけど、毎朝のこと。
『美沙っ!…っごめん…ちょっと寝坊した…』
あ、幼なじみなのに凌と一緒に行かないの?って思ったでしょ。
……昔は一緒に行ってたんだけどなぁ。
私だけ、こんなに寂しいのかな…?
「今日から二年生だよ、ピシッとしなさい」
『はーい』
「…どーした?実夕が元気ないと調子狂うよ。あ、クラス替え不安なんでしょ?」
『うー…どうしよう、美沙とも凌とも離れたら。今年は修学旅行もあるのに…』
「うーん…6クラスあるからねー。でも、実夕なら大丈夫!男子とも頑張って接するようになるチャンスだと思って、ね?ホラ、隣の席の男子とかから少しずつ頑張ってみようよ!」
『ありがと〜美沙ぁ!よし、なるべく頑張ってみる』
クラス発表の紙の前は、例に漏れずすごい人だかりが出来ていた。身長も大して無い私には、到底拝めそうも無い。寝坊した私が悪いんだけど、もう少し早く来てれば…!
結局、私より8センチは大きい美沙をあてにすることにした。
『ねえ美沙、見えた?』
「うーん…もうちょっと…あ、うちら同じクラスだよ!3組。」
『ホント?やった、美沙がいれば心強いよー』
ものすごーく安心した私は、視線の先にこっそり探してた人を見つけて駆け寄った。
『凌、おはよー!何組か見た?』
「あー…1組。実夕は3組だろ?お前の望み通り離れたな。」
『昨日のは勢いで言っただけだもん…分かってるくせに』
言わなきゃよかった、あんなこと…。
「あー、はいはい。そんなに俺と離れて不安かー。実夕ちゃんは昔から俺がいないとダメだからな〜」
『またバカにしてっ!じゃあね。凌なんか女子に囲まれて窒息しちゃえ、いーーっだ!』
「…なんだよその捨てゼリフ」
『美沙、教室行こ!』
「相変わらずだねー!相変わらずと言えば、実夕達がじゃれ合ってる時に沢口里香が凌介クンと同じクラスって喜んでるの見ちゃった。凌介クンも相変わらずモテるねー!今、彼女いないんでしょ?いいの?実夕と同じクラスじゃなくなったらますます女子が寄ってくるわよ」
『べ、別に関係ないね、あんな冷たいヤツ』
「だーかーら、それが“クール”って人気じゃない。それに、実夕にはちっとも冷たくなんかないじゃない」
『……。そ、それより!沢口里香ってあの美人の娘でしょ?キレイ系だし、凌好みだね、うん。次の彼女はあの娘に違いないね!あーあ、凌ばっか……一緒に育ってきたはずなのになぁ…アハハ』
「…実夕」
そう。凌のタイプは“キレイ”な娘。更に言えば、“大人っぽめ”の──まさに私と正反対。
今までの彼女、みーんなそう。
だから、誰も私と凌が仲良くても何も言わないの──普通は凌はモテるんだから、凌を好きな娘が私に意地悪、とかありそうなもんでしょ?
ぜーんぜんナシ。皆無。
…改めて気付かされる。凌と私じゃ、そういう風にはなり得ないと言うこと。
十分、分かってるつもりだったのに──。