
Side:実夕 and 凌介
昨日凌の家に忘れてきた髪留めを口実に凌に会いに行って、謝ろう。
もう、どっちが悪いとか関係ない。
だって、凌からは絶対謝ってなんか来ないから。
きっと…凌は私と仲良くなくなるくらい、そんなに気にしないんだ。
その証拠に、クラスが離れた時だって、寂しがったのは私だけ。
だから、遅くならないうちに謝りに行こう。
こんなのって悔しいけど、しょうがない。
『凌、入るよ?』
「何?」
『あ…のね、髪留め昨日なかった?』
「ああ、コレ?」
『うん。あと…謝りたくって。昨日、大嫌いとか言ってごめんね?本当はそんなこと、思ってないから』
「いいよ、別に。気にしてないし。そんなことより、それだけだろ?早く帰って寝ろよ」
なんで…?
やっぱり素っ気なさ過ぎるよ。
『えっと…あ、そう言えば沢口さんと付き合うらしいじゃん。最近彼女出来ないと思ってたけど、あんなキレイな娘…よかったじゃん!』
何だよ…それ。
「いや、断ったし」
『え…本当に?なんで?』
そんな嬉しそうな顔するなよ――アイツが好きなくせに。
そうやって無意識に期待させてること、気付いてないだろ?
なんか…イライラする、さっきから。冷静で居られない。
「別に。めんどくさかっただけ」
『もったいなーい。凌のタイプなのに』
は?タイプ?
何ソレ。勝手に決めつけんなよ。
「お前こそ。見ちゃった、男と帰ってくんの。アイツが噂の暁?よかったじゃん、大好きな暁とデートですか?お前の遅い初恋、応援してやるよ」
『違うもん、暁はそんなんじゃないもん……凌の無神経!』
どうして?
どうしてそんなこと言うの?
凌のいつものからかいなのに。分かってるのに…ヤバイ、泣きそうだ──。
「何がそんなんじゃないだよ、バレバレ」
違うのに。
だけど、ダメ。泣いちゃダメ。
ダメなのに――。
「…何で泣くんだよ」
そんな風に言いながらも、凌のいつもの優しい手が、ゆっくりと背中を擦ってくれる…。
やだ。期待させないでよ。これ以上掻き回さないで。
キモチがどんどん加速して…止まらない。
『ばか、優しくしないでよ…。どうせ、責任も持てないくせに。』
他の娘と一緒にしないで。
私を…私だけ見てよ。
「何だよ。お前こそあんな夜に男とベタベタしてんなよ」
『夜って…まだ八時前だったじゃない。それに、暁はそんなんじゃないって言ってるじゃん』
「言ってんだろ、アイツは男だって」
『な、男って…。そんなの分かってるもん!』
「分かってねーよ。俺だって男だよ……こんな夜に男の部屋に来んなって何度言えば分かんだよ」
『何よ、いきなり。男って…凌は幼なじみじゃん』
「幼なじみだって男だよ」
『分かってるもん。ずっと男の子だって分かってたもん』
「分かってねーよ。分かってたらこんな夜に来ねーよ」
『そ、それは凌がっ。私のこと子供扱いして、いつだって女の子扱いしてくれたことなんて無かったじゃない。だからっ』
「してるよ。…だからこんな夜に男の部屋に来んなって──どんだけ、どれだけ俺が我慢してると思ってんだよ。どれだけキモチ抑えてきたか…お前に分かるかよ…っ」
『分かるよっ。私だって…いつもキモチ呑み込んできたもん。凌は…凌はいつだって誰かのものだったから──』
瞬間、ビックリするほど力強い腕に引き寄せられた。
凌の腕の中。凌の匂い。凌の体温。
夢にまで見た凌の──。
何でだろう…泣けてきた――…。
「実夕が悪いんだからな…期待持たせるようなこと言うから。ずっと、ずっとこうしたいの我慢してきたのに――。なあ、ちゃんと俺のこと男として見ろよ。……いつまでも、ただのオサナナジミじゃいられねーよ。」
『凌…』
「誰と付き合ったって、実夕のこと考えないことなんか無かった──本当はずっと…好きだったんだ」
『私だって、ずっとずっと好きだった──私のことだけ見て欲しかったんだよ。』
「ごめんな、今まで。…怖かったんだよ、キモチを伝えて実夕を失うのが。でも、やっぱり気付かない振りなんてもう無理だった…。だから、もう逃げないから。ずっと、実夕だけしか見ない…見えないから。」
『絶対よ?約束だからね』
「お前こそ…アイツとあんま仲良くすんなよ」
『うん、大丈夫。私は凌だけだから――それだけは、自信があるの…昔から』
「…あんま可愛いこと言うなよ」
『アハハ。凌、顔真っ赤』
「お前のが赤い。」
『しょうがないでしょ?』
「好きなんだから――だろ? 言うと思った」
『エヘヘ』
変なの。顔が自然とニヤけちゃう。
これからは、ずっと隣にいられるんだね。一番近くにいられるんだね…。
きっと不安になることもあるけど、大丈夫。
もう、曖昧な関係から一歩前進したの。
ライバルなんかが出てきたって、胸を張って言えるから。
だって、今日から二人は……“恋人同士”。